2020/07/15 08:32

◎晩茶研究会 菩提酸茶製造メンバー


◎後発酵茶製造のきっかけ

2019年3月30日 ホワイトボードに書かれた会の名称/正式発足は2020年3月21日


晩茶研究会会長 元愛知大学教授 松下智

2019年3月30日、松下智先生の呼びかけで「晩茶研究会」が発足した。
──────────────────────────────────────
設立趣意書より
リーフ茶の消費が減少し、茶の取引価格が低迷している現在、日本茶業は危機的な状態に置かれていてると言っても過言ではない。このままでは養蚕業の二の舞になり、急激な衰退が起きることになるのではないかと思う。

幸いにして、茶は飲み物であり、身体の諸機能に効能を持っていることである。茶の諸機能の真髄はタンニンであり、タンニンを活かした茶が晩茶であり、その晩茶は日本の煎茶よりはるかに長い歴史があり、茶の原点といえるものである。

現在の茶の危機に際して、この原点に立ち返って、現在の茶を考える必要がある。本会の活動を通して、日本各地に伝承されている晩茶を育て、晩茶の良さを守り、広く人々に知っていただき、日本茶再興のいち方途ともなることを念願するところである。
よってここに晩茶研究会の設立を発起する次第である。
設立者 松下智
──────────────────────────────────────
2019年8月に袋井市で晩茶研究会の初イベントとして「伝統的な樽漬けの後発酵茶づくり」に取り組んだ。一般の方も含めて20名弱参加し、阿波晩茶製法で2樽(生葉24kg)分を製造し1ヶ月間発酵させた。2日間の天日干しを経てお茶は完成したが、酸味も香りも薄く本場の阿波晩茶には遠く及ばないものであった。
※製造工程:手摘み→茹でる→揉捻(揉捻機)→漬け込み(一ヶ月)→天日干し(2日)

13名で茶摘み 慣れない作業で1時間半で生葉は24kgだった。茶園は晩茶研究会・安間 孝介氏に提供していただいた。

木樽とプラ樽の2つに分けて製造した

完成した袋井発酵晩茶

ただ、弱いながらも酸味が感じられた事から、静岡でも後発酵茶が製造できるのではないかと希望を持つことはできた。
その後、阿波晩茶に関する様々な研究論文や後発酵茶(漬物茶)、その他広く発酵に関する本を読み、乳酸菌の性質や後発酵茶について理解を深めた。
その上で失敗の原因を分析し、製造方法を見直した。10月に秋冬番茶を原料に試作的(生葉5kg程度)に後発酵茶にした所、酸味のあるお茶が出来上がった。

秋冬番茶を使用した後発酵茶

11月、メロープラザで行われた松下先生の茶文化講座で、参加者の方に試飲して頂いた所大変好評だった。このお茶に自信を持つことができた。次は製造量をもう少し増やそうということになり、寒茶の後発酵茶づくりに挑戦することになった。晩茶研究会の取り組み課題の一つとしている放棄茶園再生のモデルケースにと考えていた豊沢地区の茶園を活用することにした。


2020年1月20日 大寒 袋井市豊沢(菩提地区)の茶園で早朝の茶摘み。2018年一番茶摘採後から晩茶研究会副会長の池田佳正氏が無農薬、無施肥で管理している。

この日は晩茶研究会と松下コレクションを活かす会の共催で伝統的な木桶で蒸し上げる寒茶の製造体験も行った。木桶で蒸した寒茶は参加者に持ち帰っていただき各自で天日干しで仕上げていただいた。

とよさわ日干晩茶を使用した茶粥づくり。お米は袋井のブランド米「龍の瞳」を使用。参加者に大好評だった。

2020年1月、大寒に摘み取った茶を後発酵茶に製造したところ、秋冬番茶同様に酸味のある後発酵茶ができあがった。乳酸菌が含まれていることもわかった。そこで製品化を目指して2月末に再度寒茶を摘採した。4ヶ月発酵させたものを「菩提酸茶」として製品化した。(世界緑茶コンテスト2020に出品)

天日に2日間干して乾燥させた菩提酸茶

◎菩提酸茶の命名

乳酸発酵で酸味が強く、爽やかな香味であることから茶の特徴を端的に表す言葉として「酸茶」を使用した。茶の原点に立ち返って現代の茶を見直すという晩茶研究会の思想も込められている。
菩提は現在はない地名だが、地元では今も使われており、静岡県文化資源データベースにも菩提地区の茶園として登録がある。歴史的に意義があり残すべき産地名だと思った。
袋井市菩提地区の茶園はふじのくに文化資源データベースにも登録されています。


袋井市豊沢(菩提地区)の美しい茶園風景。晩茶研究会・安間孝介氏のYoutube動画より。

◎袋井、そして菩提から発信する意義


袋井市豊沢地区の石碑 奥が寒茶を摘採した茶園。メンバーには「石碑に隣接した茶園は絶対に残す」という強い想いがある。

寒茶を摘採した茶園の一角には静岡県(斉藤滋与史知事)が建てた石碑がある。石碑には「欣奏累遣(きんそうるいけん)」と書かれている。「喜びいたりて煩い去る」という意味だ。菩提地区の美しい茶園風景は先人の労苦のおかげである。しかし日本茶業は今、かつてない困難に直面している。受け継いだ茶園を次代につなげるのは私達の使命だと思っている。松下先生の指導を受けながら、菩提の地で茶の原点に立ち返った後発酵茶を作る意義は大きい。

◎パッケージについて


大杉弘子先生にデザインしていただいたパッケージ。複数候補の中から圧倒的に熱量が高いこのデザインを選んだ。

欣奏累遣は千字文から抜き出した4字である。千字文は梁の時代に作られたいわば書道のお手本である。袋井は川村驥山を排出し書道が盛んな土地柄であり、「書」というキーワードに着目した。
松下コレクションを活かす会会長の豊田富士雄氏にご尽力いただき、世界的に活躍されている袋井出身の書家・大杉弘子先生にパッケージデザインを依頼した。翌日、早速大杉先生に茶園と石碑を実際に見ていただき、菩提酸茶の全体像を掴んでいただいた。我々は漢字の菩提酸茶を想定していたが、大杉先生が富士山とochaを内包したより大きなイメージにひろげてくださった。

◎今後の活動


記念すべき製品第一号。

菩提酸茶の生産量は非常に少なく品質面もまだまだ改良の余地があるため今後も研究を続けていく。
晩茶研究会としては松下智先生のご指導の元、晩茶の普及活動や製造体験活動にも取り組んでいく。晩茶サミットの開催を目指しており、晩茶の多様性を感じていただく場にしたい。